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    『転生したのに、また叶わぬ恋に落ちました』SS①


     作者が書きたかったけど、本編内に書く隙間がなくて、断念したSSです。
     少しでもお楽しみいただければ幸いです。


    『転生したのに、また叶わぬ恋に落ちました』SS・~姫様の恋~
    __________________________________________________

     シャクヤクの花が咲き乱れる庭園に、稚い子供たちの声が響き渡る。

     プロクス王国の安寧を象徴するかのような、温かな風が吹き抜ける、春の日だった。

     何の因果か、プロクス王国の前国王であるクライブに招かれ、王宮を訪れたアレクシスは、王家の子供たちが無邪気に遊ぶ庭園に案内されていた。

     青々とした芝生には、ところどころにシロツメクサの花が咲いており、どこからともなく芳醇な花の香りが漂ってくる。

     春の温かな日差しに、王宮の至る場所で花々が咲き開き、新緑は鮮やかに芽吹きだした頃だった。

     ――幸福な、国だ。

     アレクシスがそんな感想を抱いた時、傍らに立っていたクライブが声をかけた。

    「どうだ、元気だろう」

     王家の子供たち――王太子と王女が駆けっこをする様を愛おし気に見つめ、彼らの祖父・クライブは同意を求める。

     アレクシスは彼らに瞳を細め、頷いた。

     八歳の王太子と十歳の王女の姿はまさに、誉れ高きプロクス王国の威光を背景に持った、輝く姫と王子だった。自分とは無縁な世界の、高貴な子供たち。

     彼らが駆け回る様を、顔色をなくして見守っていた傍仕えのメイドが、庭園に咲き乱れていたシャクヤクの花を摘み取る。そして彼女は、宮殿内に飾れば見事な出来栄えになるだろう満開の花を、惜しげもなく王女に分け与えた。怪我をさせるよりは、花を与えて大人しくさせたほうがよいと判断したのだろう。

     王女は満面の笑みでメイドに礼を言い、素直に花遊びを始めた。楽しそうに駆け回っていた王太子を捕まえて、今度は彼を人形役にして、花まみれにしていく。

     少女じみた外見をしていた王太子には、花がよく似合っていたが、当の本人は不本意らしく、仏頂面だ。

     アレクシスはクライブに促されるまま、王太子と王女のもとへ歩み寄った。

     クライブに声をかけられ、きょとんとこちらを見上げた王女の顔は、整っているせいか、よくできた人形のような印象だった。

     漆黒の髪が太陽の光を反射し、天使の輪をつくる。

     アレクシスは彼らの前に跪き、これから家庭教師になる旨の挨拶をした。

     アレクシスが知らない、安穏とした世界の姫らしく、彼女はおおらかに、そして華やかに笑った。

    「はじめまして、アレクシス。私はルナ。この子がクリスよ。とってもお花が似合うでしょう?」

     と、王女に抱きしめられつつ紹介された王太子の顔は、げんなりとしている。姉のために我慢している彼の姿に苦笑して、アレクシスは王女の膝の上に残る、シャクヤクの花に手を伸ばした。

     王女が大きな瞳を丸くして見上げるのをそのままに、アレクシスは身を寄せ、その花を彼女の耳の上に挿し込んだ。

     赤いシャクヤクの花は、漆黒の彼女の髪にとても似合っている。

     アレクシスは思ったまま、そっと言葉を吐いた。

    「貴方にもお似合いですよ、ルナ姫」

    「……え?」

     王女がぱちっと瞬く。アレクシスは立ち上がり、改めて王女を見下ろした。そしてなんの裏もなく、自身でも気づかぬ柔らかな笑みを浮かべ、称賛を贈った。

    「――お美しくあられる」

    「――」

     少女の頬がふわっと赤く染まった。

     顔に血色が上ると、人形じみた印象が一転、生気にあふれる。そして彼女は、酷く嬉しそうに笑った。――愛らしい笑顔だった。

     邪気一つない無垢な笑顔は、天使そのもの。

     風が吹いて、伸びすぎた自身の前髪が目にかかる。アレクシスは、少女の瞳が己に釘づけになっているのにも気づかず、髪をかき上げる。

     改めて見下ろした王女は、ぽかんと自分を見ているようだった。

     アレクシスは気負いなく、笑んだ。白銀の髪が光を弾いてきらめき、紺碧の瞳は海の底よりも深い、優しさを湛えた。

     王女の瞳に、不思議な輝きが芽生える。

     その瞳に宿った感情に見当もつかないまま、彼は話しかけてきたクライブに顔を向けた。

     今後について、クライブは具体的な話を始める。気遣わしく彼の言葉に微笑みを返しながら、アレクシスはすう、と息を吸った。

     ――何故だか、ずっと感じていた息苦しさが、少し楽になった気がした。

     無邪気な王女と王太子を見て、心に蓄積されていた、倦んだ感情が薄れたからだろうか。

     アレクシスは花遊びを再開した、王女と王太子を横目に見る。

     幸福になるべく生まれた、美しい姫と王子。

     彼らの傍にいられる時間は、いかほどか。

     この時のアレクシスは、王太子が十四歳になり、王女が十六歳に成長するまで――実に六年間もの長い時を、彼らと過ごすことになろうとは、夢にも思っていなかった。

     騒々しく、全てを忘れられる瞬間が無数にちりばめられた、慈しみにあふれる日々。

     ――アレクシスと彼らにとって、何よりも大切な日々が、始まろうとしていた――。

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    鬼頭 香月

    Author:鬼頭 香月
    ライトノベルを書くお仕事がしたい人。
    第1回一迅社文庫アイリス恋愛ファンタジー大賞銀賞受賞
    受賞作『転生したけど、王子(婚約者)は諦めようと思う』一迅社文庫アイリスNEO・発売中

    twitter@kito_kozuki
    →https://twitter.com/kito_kozuki

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